医師の指示どおり処方薬を服用していたらそれでよいのか?

この記事を書いた人

シン

薬剤師
東北薬科大学(現・東北医科薬科大学) 薬学部卒
東北薬科大学大学院博士前期課程修了

調剤薬局チェーン勤務の薬剤師シンです。

今回は、

「医師の指示どおりにきちんと服薬していればそれでよいのか?」

のテーマで執筆いたします。

「患者さんがお薬を飲む前に、最後に関わる医療従事者は薬剤師です。患者さんがきちんとお薬を飲めるように指導するのが、薬剤師の役割です。」

私が現在勤めている調剤薬局では、このように習いました。
恐らく、弊社だけではなく、薬局薬剤師は、どこの会社でも似たような教育を受けるのではないでしょうか。

実際、

「痛みがないがロキソプロフェンを継続処方されている患者から、いつまで飲み続ければよいのか質問されました。どの様に回答すべきでしょうか」

との設問に対し、

「処方されたお薬はちゃんと飲みきるようにしましょう。いつまで飲み続けるのかご不安なようでしたら、次回の受診の際、先生にご相談なさってみてください。」

と回答するのが正解だと述べているコミュニケーション本もあります(1)

今回は、上記の様な”伝統的な”薬剤師業務に疑問を投げかける記事です。

薬剤師の処方提案力が求められている

前回のプロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期安全性でも述べましたが、2018年度診療報酬改定で新設された服用薬剤調整支援料は、これまでの薬剤師業務とは一線を画すものです。

この点数を算定するということは、控え目に言っても、医師の処方に意見をすることになります。

例えば、痛みのない方に対してロキソプロフェンをいつまでも漫然投与するのはおかしいのではないか、胃腸障害、腎機能障害、肝機能障害、血圧上昇などのデメリットしかないのではないか、と文書で意見を述べ、実際に処方削除となった場合に算定できる点数です。

また、重複投与相互作用等防止加算も点数が上がっております。

残薬調節に係るものの場合は2016年度改定同様30点ですが、残薬調節に係るもの以外の場合は40点となりました。

このことからも、薬剤師による処方提案が求められていることが感じられます。

処方に介入しなかったために不利益が起きた可能性のある症例

私には、患者さんの不利益となる処方に対し、何もできなかった苦い思い出があります。

その患者さんは、複数の医療機関を受診し、それぞれ門前の薬局で薬を貰っていました。
ただし、お薬手帳は持参していたので、多院の処方を確認することはできました。

  • 内科で血圧、糖尿病の薬などを処方され、私の勤務する薬局で調剤を受けている。
  • パーキンソン病で総合病院神経科を受診し、院内で調剤を受けている。
  • 脊柱管狭窄症で整形外科病院を受診し、その門前薬局で調剤を受けている。

という状況でした。

ある日、お薬手帳を見ると、総合病院でエフピーOD錠2.5mgが、整形外科病院でトラムセット配合錠が処方されておりました。

どちらも私の勤務する薬局で処方したものではありません。

この2つは、併用禁忌の組み合わせです。
しかも、エフピー中止からトラムセット開始までに14日も空けなければならないものです。

患者さんに対し、

「一緒に飲まない方が良い組み合わせのお薬が出ています」

とお話し、それぞれの病院へ連絡することを提案いたしました。

しかし、患者さんは、

「連絡しないでくれ、1時間空けて飲んでいるから大丈夫だ」

とのことでした。

私は、本人の同意なしでも連絡すべきだと主張しましたが、管理薬剤師およびライン課長の見解は、

「本人の同意なしに疑義照会することはできない。クレームとなる可能性がある。」

とのことでした。

「添付文書の記載では、精神錯乱が起こると書いてあるだけだから」と。

結局、その患者さんは、その後いらっしゃらなくなりました。
その後の転帰を確認してはおりませんが、不利益が生じてしまった可能性を否定できません。

この事例では、少なくとも2点のミスを犯しております。

  1. 患者さまに対し、エフピーとトラムセットは絶対に併用してはいけない組み合わせであり、少なくとも14日間の間隔が必要であることを十分に説明できていなかった。
  2. 上司に対し、「精神錯乱」は致死的なセロトニン症候群の症状である可能性を説明できていなかった。

コンプライアンス向上によって副作用発現した症例

別の方でも苦い経験をしております。

高血圧、不眠症があり、血圧の薬2種類、抗不安薬1種類、睡眠薬2種類を服用していた患者さんです。

薬が多いため、コンプライアンス不良でした。

そこで、一包化を提案し、ご本人の同意のもと実施しました。

その結果、コンプライアンスは改善したのですが、
転倒して救急車で搬送されました。

幸い、大きな怪我はなく回復しました。

現在は、血圧の薬1種類、薬袋に「安定剤」と書いてあるFAD10mg×3錠/日で、ふらつきもなくお元気にされています。

上記2例の失態もあり、私は、必ずしも医師の処方通りに薬を服薬することが正しいとは思っておりません。

医薬分業の始まり

医薬分業は、神聖ローマ帝国のフリードリヒ2世が始めた制度です。

当時の権力者は、陰謀に加担する医師によって毒殺されることを恐れていたため、このような制度ができました(2)

その歴史からすると、元来、薬剤師は医師の言いなりになるのではなく、不要な薬が患者さんの手に渡らないよう監視する職種であったと言えます。

どうでもよい疑義照会が多い

薬局による疑義照会の件数は増えておりますが、その大部分を占めるのは、事務的事項です。

・一包化の可否
・漢方が食後
・ドンペリドンやメトクロプラミドが食後
・αグルコシダーゼ阻害薬が食直前ではなく食前
・1日2錠 分3毎食後

このような事務的事項の疑義照会など、医師にとっても薬剤師にとってもわずらわしいだけですが、地方厚生局の指摘事項に必ず挙がっておりますので、確認しないわけにいかないというジレンマがあります。

その一方、潜在的不適切処方の削除のための疑義照会やトレーシングレポート提出はまだ少ないのではないでしょうか。

患者の言う「問題ない」はどの様に解釈できるのか?

私は、管理薬剤師ではありませんので、弊社チェーンの他店舗に応援に行くことがあります。

私の勤務する店舗では、徐々にポリファーマシーに対する意識が浸透してきておりますが、他店舗では、10種類以上の薬を処方され、前回と同処方だった患者に対し、

「前回と同じお薬ですね。何か問題はありませんか?」
「特にありません。」
「ではお会計は……」

というだけの会話しかしていない投薬を見かけることがあります。

ここで、「問題がない」ということがどの様に解釈できるのか考えてみましょう。

  1. 薬を飲んでいるおかげで体調を維持出来ている。薬を飲まないと断超悪化する。副作用も起きていない。
  2. 体調を維持出来ている。実は、薬を1~2種類減らしても体調変化なし。
  3. 副作用が起きているが、患者の知識不足のために気付いていない。場合によっては、医師も薬剤師も気付いていない。
  4. 体調維持のためには役立っていない薬があり、気付いていない副作用も起きている。

これらの可能性が考えられます。

ポリファーマシーを意識しながら患者と接していると、2~4は少なくないと感じております。
上記2~4に対し、薬剤師こそが気付き、介入していきたいところです。

潜在的不適切処方

先程の2~4にも該当はしておらず、現在副作用は起きていないが、不適切な可能性がある薬が研究されています。

副作用を起こす可能性が高いため、中止した方が良いとして、具体的な薬剤名を公表しているリストがあります。

  • 欧州で作成された「STOPP/START criteria」(3)
  • アメリカのBeers医師が考案し、アメリカ老年医学会が更新している「Beers criteria」(4)
  • 日本老年医学会が考案した「高齢者に対して特に慎重を要する薬物のリスト」(5)

それぞれのリストを詳しくご紹介していると、それだけで一つの記事になってしまいますので、それは別の機会にさせていただきます。

各リストは、インターネットで無料で閲覧できますので、ご興味のある方は検索してみてください。

不適切な抗菌薬処方

潜在的不適切処方は、長期連用の場合のリスクを示したものですが、短期的な抗菌薬の不適切使用にも問題があります。

2017年10月、厚生労働省より抗微生物薬適正使用の手引きが公開されました(6)

2015年の世界保健総会にて、薬剤耐性対策アクションプランが策定され、日本でも抗菌薬適正使用を求められておりましたが、それがようやく形になったものです。

また、2018年度診療報酬改定でも、小児抗菌薬適正使用支援加算が新設されました。

不適切な抗菌薬処方により、多剤耐性菌が形成されると、死亡率が上昇するとの報告もあります(7)

以上の状況から、抗菌薬の適正使用を心がけている医師も増えてきております。

しかし、未だに何でもかんでも抗菌薬というような医師も存在します。

先日受けた処方箋では、

Rp1)
ジェニナック錠200mg 2錠
パリエット錠10mg 1錠
朝食後

Rp2)
トランサミンカプセル250mg 3カプセル
ムコソルバン錠15mg 3錠
アスベリン錠20 3錠
ロキソニン錠60mg 3錠
ポララミン錠2mg 3錠
毎食後

Rp3)
ピーエイ配合錠 8錠
毎食後就寝時
5日分

Rp4)
ホクナリンテープ2mg 5枚

Rp5)
SPトローチ0.25mg「明治」 20錠

Rp6)
イソジンガーグル液7% 30mL

Rp7)
カロナール200mg 1回2錠
5回分

という処方がありました。

抗微生物薬適正使用の手引きでは、鼻症状、咳症状、喉症状が、ほぼ同時期(24時間以内)に発現し、ほぼ同様の強度であれば抗菌薬不要とされております。

上記処方の例では、鼻症状、咳症状、喉症状はほぼ同様の強度であり、ほぼウイルス性だと思ってはいました。

しかし、39℃の熱があり、症状聴取だけでは細菌感染を否定しきれなかったこともあり、ジェニナックはそのままお渡しし、ピーエイと重複しているポララミン、ロキソニン、カロナールのみ疑義照会で削除していただきました。

通話での疑義照会で削除していただくには、抗菌薬の適正使用問題は、少々複雑な内容でもありました。

疑義照会とトレーシングレポートの使い分け

上記の抗菌薬削除のように、ガイドラインや学術報告に照らし合わせて処方提案をするような場合には、疑義照会よりもトレーシングレポート向いていると思います。

トレーシングレポートの利点としては、

  • 文書で報告するため、長文となる内容を連絡することもできること。
  • 論文やガイドラインの一部または全部を添付することもできること。
  • 医師の診察中ではなく、時間の余裕のある時に確認していただける可能性のあること。

一方、欠点としては、

  • 投薬後の報告となるため、副作用の可能性がある場合でも、当該処方分については処方通り調剤することになること。

が挙げられます。

つまり、

  • 併用禁忌など、そのまま調剤することが危険だと考えられる場合には、疑義照会。
    例:トラムセットとエフピー併用の場合、小児の処方量が10倍量の場合など。
  • 長期的にリスクのある処方、より良い処方の提案など、次回受診時までに医師に確認していただけば間に合うことはトレーシングレポート。
    例:ふらつき、食べ物が喉につかえる症状があり、ベンゾジアゼピン服用している場合、片頭痛治療を受けており、プロトンポンプ阻害薬服用している場合、ウイルス性感冒と思われる症状に頻繁に抗菌薬処方する医師への抗菌薬適正使用のお願いなど。

といった使い分けが考えられます。

「次回先生にお伝えするようにしてください」からの脱却!

副作用かもしれない症状が出ている場合、薬とは関係なさそうだが困っている症状がある場合、残薬がある場合など、薬剤師から患者さんへ上記のように伝えることがあります。

しかし、次回受診まで1ヶ月空いていたり、外来が込み合っていて医師が忙しそうにしていたりと、なかなか患者さん本人からは伝えてもらえないことが少なくありません。そのため、何回も同じやり取りをすることもあります。1年以上同じやり取りをすることもあります。

このような場合にも、トレーシングレポート提出は効果的です。

患者さんから伝えてもらうより、自分でトレーシングレポートを提出しましょう。

まとめ

  • ガイドラインや学術論文を読み、知識を身に付け、処方の妥当性を判断できるようになろう。
  • 込み入った内容は、疑義照会ではなく、投薬終了後にトレーシングレポートを提出しよう。
  • 次回受診時、患者さんから医師に伝えてほしいことは、薬剤師から直接医師に、トレーシングレポートで伝えよう。

引用
(1)薬剤師のためのコミュニケーションスキルアップ (KS医学・薬学専門書)2010/8/31 井手口 直子
(2)Wikipedia 「医薬分業」
(3)STOPP/START criteria for potentially inappropriate prescribing in older people: version 2. O’Mahony D, O’Sullivan D, Byrne S, O’Connor MN, Ryan C, Gallagher P. Age Ageing. 2015 Mar;44(2):213-8. doi: 10.1093/ageing/afu145. Epub 2014 Oct 16. Review.
(4)高齢患者における不適切な薬剤処方の基準─ Beers Criteria の日本版の開発.今井博久,Mark H. Beers,Donna M. Ficks,庭田聖子,大滝康一.日本医師会雑誌.2008;137(1):84-91.
(5)高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015 日本老年医学会 日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物療法の安全性に関する研究研究班編集
(6)抗微生物薬適正使用の手引き第一版 厚生労働省健康局結核感染症課
(7)Impact of inadequate initial antimicrobial therapy on mortality in infections due to extended-spectrum beta-lactamase-producing enterobacteriaceae: variability by site of infection.Hyle EP1, Lipworth AD, Zaoutis TE, Nachamkin I, Bilker WB, Lautenbach E. Arch Intern Med. 2005.

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シン

薬剤師
東北薬科大学(現・東北医科薬科大学) 薬学部卒
東北薬科大学大学院博士前期課程修了

製薬メーカー研究職、CROを経て、現在、調剤薬局にて薬剤師として勤務。
休日には、仏像彫刻作製やボルダリングなどを行っている。

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