輝く薬剤師特集VOL7は株式会社タイコー堂薬局専務取締役、井上龍介先生のご登場です。
「地域の繋がり活動」はまさに薬剤師維新。新しい風を吹きこむ井上先生の活動は必見です!!
(インタビュアー 伊川)
■井上先生の簡単なご略歴をお聞かせください。
神戸薬科大学を卒業後、調剤薬局に就職しました。学生時代から「人生の最期をサポートする薬剤師になりたい」「家で畳の上で人間らしく自宅で最期を迎えることに寄与したい」そう考えていました。臨床を知らずして在宅医療で活躍する薬剤師にはなれない、そう思い、知り合いのつてで救急病院にて3年間勤務しました。
薬局長も経験し、初志貫徹で、在宅医療に貢献する薬局薬剤師になろうと薬局に戻ってきました。現在は大阪南地区で店舗展開をするタイコー堂グループの専務取締役として経営に携わりながら、CSR活動として医療・介護・福祉の連携、繋がりを作る活動をおこなっています。
■井上先生は「在宅医療」にとても思いがあるのが伝わってきますが「在宅医療に寄与したい」と思ったきっかけは何だったのでしょうか??
「龍介、おまえもあんな立派な薬剤師になってほしい・・・」
きっかけは、中学時代にガンで亡くなった祖父からの言葉でした。 祖父が亡くなる前にとても親切に対応してくださった薬剤師さんがいて、「お前もあんな薬剤師になってほしい」と言っていたのがとても心に残っています。このようなことを言わせる薬剤師って凄いですよね。
特に人の終末期に、影響を与えられる存在であること、「こんなに素晴らしい仕事はない」と思っています。人として死ぬ場所は「自宅がいい」、「畳の上がいい」と言いますが、実際はなかなかそうできない現実があります。だからこそ私は、「患者さんの人生の最期を自宅で畳の上で迎えられるように、サポートする薬剤師になりたい」と思いました。そして、初めての職場からずっと在宅医療に関わることには拘っています。
■人生の最期をサポートする「在宅医療」を通じてやりがいを感じたエピソードなどあれば聞かせてください。
在宅医療で対応していた患者さんが亡くなったとき。だいたいいつも49日を過ぎた後くらいに、集金に伺いますが、その時に患者さんとの思い出をご家族の方とお話しします。するとご家族の方も一緒に涙を流してくれます。患者さんの最期に医療人として、人として真摯に向き合うと、絆が生まれる。ご家族の方とは街であっても気軽に声をかけてくれるような存在になります。亡くなったご家族のメンタルケアはとても難しいですが、在宅医療に携わることで地域に関わっている、寄り添っているという実感がでてきます。これは調剤室にいるだけでは感じることのできないやりがいではないでしょうか。
■「人生の最期をサポートすること」は覚悟のいることだと思いますが、その分やりがいも大きいのですね。井上先生はCSR活動として医療・介護・福祉の連携、繋がりを作る活動もされているそうですが具体的にどのような活動なのでしょうか??
つながり活動とは、人と人、人とモノ、人と情報といったように私自身をハブとして新たな出会いや気づきを提供することです。多職種連携などの地域のつながり、地域活動での地域住民とのつながり、企業同士、企業と学生、薬剤師同士などいろいろなつながりから多くの人に医療・介護・福祉の啓蒙活動、研修、人材育成を行っています。
CSR活動は有名ですが、私はこれをPSR活動(personal social responsibility)と呼んでいます。私たち薬局薬剤師は、地域の皆さんが、薬局を利用していただくことで会社から給料をもらい、地域で生活しています。ならば、地域に対して、地域の皆様に対して、薬剤師として、個人としてお役にたてることをするのは当然であると考えています。
地域の自治会の集まりで「薬の正しい使い方」を講演
■すごい多くの活動ですね。これだけ多くの職種の方を巻き込む薬剤師さんは初めてお会いしました!!井上先生の名刺には「訪問薬剤師」と記載されていますが一般の在宅に従事する薬剤師さんとの違いはあるのでしょうか?
やっぱり、「訪問薬剤師」を勘違いしているね(笑)
「訪問薬剤師」は訪問薬剤管理指導や居宅療養管理に従事する薬剤師という意味だけじゃなくて、地域に困ったことがあれば訪問する。地域で出来ることを見つけるために調剤室を出ていく。
そんな風に考えています。僕が作った造語ですが(笑)
訪問看護があるなら訪問薬剤師があっていいのではないかと。 患者さんの居宅はもちろん、高齢者施設、学校、町の集会所、イベント会場など必要とされるところならどこへでも訪問します。もちろん、薬剤師として『やるべきこと』がそこにあるからです。
地域の方々とお話しし、薬剤師としてどんな事が必要とされているのか?もし困ったことがあれば「この問題なら薬剤師が解決できるよ」と提案します。薬剤師は能力が高い人が多いのに、2、3歩引いてしまう。でも地域に入っていけば薬剤師が必要とされることってたくさんありますよね。
マズローの五段階欲求説でいえば、薬剤師の多くが自己実現の一歩手前の「承認の欲求」がまだまだ満たされていないと思っています。ここが満たされると、自己実現欲求を持った薬剤師さんが増え、また時代も変わるのではないかと思っています。僕は訪問薬剤師として、地域の様々な方との繋がりの中で「薬局、薬剤師ができること」や「地域の問題に関わっていくこと」を積極的に地域にアピールしています。地域の問題に寄り添い、解決していくことで信頼と実績を築いていく。これが僕の役割だと思っています。
■井上先生、目がキラキラして眩しいです(笑) 「訪問薬剤師」とても素敵な定義だと思います。地域を繋げる存在になろうと思ったきっかけはあるのですか??
「きっかけは、叔父の孤独死」
3年ほど前に叔父が亡くなりました。糖尿病でほとんど目が見えなくなっていました。離れて暮らす叔父の兄が不憫に思い「きちんと介護や福祉を受けるように」と説得しました。しかし叔父は「行政や他人に世話になるのは嫌だ」と亡くなる2、3日前に電話で訴えていたようです。
叔父は孤独死でした。
猛暑の時期に1週間ほど放置されていました。独居であり近所付き合いもなく、発見のきっかけは異臭でした。死に目にも会えず、遺体確認もできず、遺族にとっては苦痛と後悔しか残りませんでした。『独りで誰にも迷惑や世話をかけずに亡くなる』といった、孤独が美化される風潮もありますが、それは間違いです。明確な定義はありませんが、死亡から24時間以上発見されないと孤独死という見方もあります。
24時間以上たつと何が始まっていくか。
腐敗です。腐るのです。
人間の肉体が腐乱し始めます。日がたてば、体の水分は枯れ、脂は溶けだし、じゅうたんや床にこびりつきます。死体の形のままにそのあとが残ります。これは洗浄では消えません。腐乱した肉体は異臭を放ち、近隣住民に不快感を与え、発見されるもさらなる嫌悪感を植え付けます。発見者の恐怖や、それを処理する人たちの心痛や苦労も想像に難くありません。
遺族は「なぜ助けてやれなかったのか」「あのとき連絡していれば、連絡してくれていたら」と近親者の孤独死を一生後悔し続けます。そんな死に方が果たして美化されるべき死に方でしょうか。本人も自分の体が死後に腐っていくことを望んでいるのでしょうか。死後の処理に嫌悪感を抱かれることを望んでいるのでしょうか。近親者や周囲の人々に一生拭えない後悔の念を抱かせることを望んでいるのでしょうか。きっと違います。
できるならば、近親者に見守られながらその時を迎えることが理想的な最期なのではないでしょうか。もちろん、個人個人の事情によりそれが叶わないこともあると思いますが、できる限り温かくおくってあげることが周りにいる人々の努めであるはずです。
孤独死を防ぐために、地域のつながりは必須です。コミュニティの構築です。地域によって、形は異なると思いますがそれぞれの地域に合った形を地域の人たちが話し合い作り上げていくことが大切です。
もし、そのような仕組みが地域にできていたら叔父は孤独死することなく、次の日にケアしてくれる誰かに発見されていたはずです。遺族の私たちも死に顔を確認でき、お葬式も当たり前のように行い、叔父の死を受け止められたはずです。そんな当たり前のことができないような孤独死をこれ以上増やしたくないのです。
これからの医療、介護、福祉が現在の水準を維持できるようにする仕組みは何か?どうすればいいのか?そんなことも合わせて考えることができればと考えています。
■訪問薬剤師の目的は「孤独死」を無くすこと。これは崇高な使命だと思います。 井上先生は「訪問薬剤師」として今後どのような活動をしていくのでしょうか??
医療に携わる人の多くは最初から志がある人が多く、「人のために」とよく聞きます。
私は薬剤師として目の前の人、担当した患者さんに懸命に接してきました。
しかし、立場が変わり、今は会社として、組織として何ができるだろう。
目の前の一人ではなく、その人のさらに後にいる人たちを見ています。
弊社の薬剤師の担当する患者さんが100人いるならば、薬剤師に思いを伝えることにより、その後ろにいる患者さん100人にも伝えることができるはずです。
例えば1日に3人の人に思いを伝えることができたとします。その次の日にその3人がそれぞれ別の3人に伝え、また次の日に・・・。と繰り返すと、1週間でこの思いは2000人を超える人に伝わります。
この思いをできるだけ多くの人と共有していきたい。そして、よりよい地域や社会、日本にしていきたい。
根底には、私の叔父と同じような孤独死がない世の中にしたいという思いがあります。
医師発信型在宅医療から多職種発信型在宅医療へ
現在、薬剤師が在宅訪問をするきっかけは『医師の指示』が多いです。実際僕も、他の職種の方に言われても「医師の指示がないと行けません、医師の指示を貰って来てください」と言っていた時期もありました。しかし、地域に出向くようになって「それは間違いだ」と気づきました。地域には医師の知らない、見えないところにも問題は山のようにあります。
その問題の存在を知っているのは、誰よりも患者さんに寄り添う『ケアマネジャー、ヘルパー、看護師、家族など』です。さらには、問題であっても医療的な知識が乏しいために問題と気づいていないケースもあります。ここで薬剤師の登場です。地域で一緒になって患者さんを見つめましょう。複数の職種で見れば、何が問題なのか、どうすればいいのかに繋がります。
つまり、医師から指示を貰うだけではなく、多職種から問題発見のきっかけを貰い薬剤師が確認し、必要であれば医師に薬剤師の介入が必要であることを訴える。この流れが大事です。
もちろん、医師がすべての患者の生活背景まで理解していればいいのですが、それは無理です。現在も在宅医療に関わる医師は不足であるのに、在宅医療を必要とする人はますます増えてきます。ならば、医師の負担軽減にも繋がるように、多職種で患者さんを見守っていく必要があります。もちろん、各々の情報は共有され医師にフィードバックされます。つまり薬剤師の視点で言うと、『医師発信型の在宅医療』から『多職種発信型の在宅医療』に意識を変える必要があります。
今までと同じやり方では、今後の在宅医療を存続させるのは難しいです。薬剤師が地域に寄り添うことで多職種との連携から地域の患者さんの問題を早期発見し、早期に対応する。そうすることが医療費の削減につながり、さらには健康寿命の延伸にもつながるのです。
■多職種発信型在宅医療。まさに井上先生の繋がり活動でまた新しい概念が生まれてきそうです!! では最後に若手薬剤師さんにメッセージをお願いします。
自分を知ってください。
自分が何をしたいのか。何に興味があるのか。何を大切にしているのか。何に幸せを感じるのか。自分のことを知らないと、相手のこともわかりません。
孫子の兵法書にもあります。
「彼を知り己を知れば百戦殆からず」
自分を知った上で、人に寄り添い、患者さんに寄り添い、地域に寄り添ってください。地域には多くの方がいます。多くの声があります。多くの問題があります。固定観念を捨て、他人の意見や声を聞きましょう。すると、幅広い視野で物事を見ることができ、今までとは違う見方ができるようになります。
今まで何も思わなかったものが、とても大切なことと思ったり、大問題であると思ったりします。
自分に何が求められているのか、自分のやりたいこと、やるべきこと、本当の自分の役割が見えて来ます。
その上で、薬剤師としての業務や活動を日々やっていきましょう。きっと、多くの人に感謝され頼られる薬剤師になれます。
みんなに信頼され認められる薬剤師になってください。
自分の手でオンリーワンの薬剤師の価値を作り出すのです。
自他ともに認める薬剤師として活躍してくださることを期待しています。
ありがとうございました!!
1975年 大阪市生まれ
1998年 神戸薬科大学薬学部卒業後、薬局に就職
2000年 薬局から病院へ転職
2003年 有限会社タイコー堂薬局本店に入社
2013年 株式会社総合メディカルに吸収合併
現職 総合メディカルグループ 株式会社タイコー堂薬局本店 専務取締役
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